「お父さん、認知症やから仕方ない」——そう頭でわかっていても、実際に自分の親が目の前でそうなると、胸にくるものがある。
私は看護師として30年以上、認知症の患者さんと向き合ってきた。でも、父が認知症になってから気づいた。知識があることと、受け入れることは、全然別の話だ。
この記事では、90歳の父(認知症・短期記憶障害あり)との日常で実際に起きた出来事と、そのたびに私が考えた対策を書いていく。完璧な答えじゃない。でも、同じように悩んでいる方の参考になれば、と思って。
① 2〜3分ごとに同じことを聞く

お墓参りの前に花屋へ向かう車の中で、父が聞いた。「で、どこに行くんやった?」
2〜3分前に話したばかりだ。母が「またおんなじこと聴いてはるわ」と呆れたように答える。そしてまた2〜3分後、父はまた聞く。「で、どこに行くんやった?」
看護師として、こういう場面を何十年も見てきた。「同じことを繰り返すのは、本人に悪意も自覚もない。その都度、本当に初めて聞いているんです」と家族に説明してきた。でも自分の父がそうなると、頭でわかっていることと、胸に来るものは、全然別だった。
対策:正しく答えなくていい
認知症のケアは、事実を正確に伝えることより、その人が穏やかでいられることを優先していい。「花屋さんやよ」でも「もうすぐ着くよ」でも、父が安心できる言葉であれば、それでいい。
② 夕方になるとWi-Fiの電源をオフにする

実家には屋外防犯カメラを設置している。Wi-Fiを2階に引いて、家の周りをカバーできるようにした。
ところが、父は昔からの「もったいない精神」で、夕方に雨戸を閉めて回るついでに、Wi-Fiルーターの電源をオフにしてしまう。使っていないものの電源は消す、という習慣が体に染みついているのだ。
私が夜寝る前に防犯カメラをチェックしようとすると、オフライン表示。電話しようにも、8時を過ぎると父も母も携帯をリビングに置いたままで繋がらない。家の固定電話も同様だ。
対策:母に夜の確認役をお願いする
最初はテプラで「電源を切らないでください」と貼ってみた。でも父は読んだうえで、「切っても大丈夫」と判断してしまう。認知症では、文字や言葉による制止が効きにくいことがある。責めても意味がないし、本人は悪意がない。今は寝る前に母がWi-Fiの電源を確認する係になってもらっている。
③ アイスを冷蔵庫に、豆腐を冷凍庫に入れる

買い物から帰ると、父が冷蔵庫に食品をしまってくれている。ありがたいのだが、アイスが冷蔵庫に、豆腐が冷凍庫に入っていることがある。
「冷たいもの=冷凍庫」という思い込みなのか、あるいは単純に区別がつきにくくなってきたのか。認知症が進むと、こういった判断が難しくなってくる。
対策:マグネットシートで冷蔵庫に表示する
冷蔵庫と冷凍庫のドアにマグネットシートを貼って、「ここは冷凍庫(アイス・冷凍食品など)」「ここは冷蔵庫(牛乳・野菜など)」と書いて貼った。視覚的にわかるようにしておくと、本人も迷いにくくなる。
④ AirTagが近所の塀の上に乗っていた

鍵をなくすことが増えてきたので、AirTagを鍵につけてもらうことにした。これで位置情報がわかる、と安心していた。
ところがある日、位置情報が実家ではなく、少し離れた場所を示している。「えっ」と思って確認すると、鍵にはAirTagのケースだけが残っていて、中身がない。
AirTagには、近くにいるときに音を鳴らす機能がある。位置情報を頼りに近くまで行き、音を鳴らしてみると——近所の塀の上に乗っていた。誰かが見つけて、わかりやすい場所に置いてくれたのだと思う。
父がケースから取り出してしまったのか、どこかで外れてしまったのか、今もわからない。でも、AirTagがなければ見つからなかった。
対策:ケースをテープで固定する
その後は、AirTagのケースをテープで鍵に固定するようにした。完全ではないが、簡単には外れなくなった。
完璧な対策じゃなくていい
認知症の介護に、「これで完璧」という答えはない。同じ対策が翌日には通用しないこともある。
でも私が看護師として感じるのは、「その人に合わせて、その都度考える」ということが、何より大切だということ。マニュアル通りにやることより、目の前のその人を見ること。
父はまだ、毎朝自分で着替えて、雨戸を閉めて回って、「ありがたいなあ」と言う。その姿を見るたびに、私もまだまだやれると思う。
同じ状況の方に、少しでも参考になれば嬉しいです。


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