前回の記事で、認知症外来の先生に「散歩を忘れるお父さんには、ホワイトボードに時間を書くといいですよ」と教えてもらった話を書きました。
▶ 前回の記事:認知症介護で心がすり減った日。認知症外来の先生に教わった大切なこと
「よし、作ろう!」と思ったものの、仕事やらなんやらで忙しくて、なかなか作れずにいたんです。
その間に、実家では新しい「困った」が始まっていました。
夜中の「スイッチ切り」が始まった
父は夜、トイレに起きると、コンセントの小さなランプが気になるようで、家中のスイッチをひたすら切って回るようになりました。
一番困るのが炊飯器です。母が朝ご飯のためにタイマーをセットしておいても、夜中に切られてしまって、朝になってもご飯が炊けていない。2階のWi-Fiの電源も切られて、母が後からこっそり入れ直しているそうです。
母から電話で「炊飯器だけは切らんといてほしいわ〜」と、困り果てた声。
貼り紙作戦、あえなく失敗
まず私がやったのは、イラスト付きの貼り紙でした。「このスイッチは切らないでね」と書いてラミネートして、母に渡したんです。
結果は……効果なし。

看護師として少し解説すると、認知症が進むと「文字を読む→意味を理解する→自分の行動を止める」という一連の流れが、だんだん難しくなります。それに父にとって、夜に光っているランプは「消し忘れ」に見えているんですよね。
考えてみれば、父は昭和の大黒柱。「電気を消して回るのは自分の役目」と、何十年もやってきた人です。困った行動に見えて、実は本人なりの理由がある。「役割の続き」なんだと思うと、ちょっと見え方が変わりました。
(※こうした行動が急に増えたときは、かかりつけ医やケアマネさんにも共有しておくと安心です)
先生に教わったホワイトボード、やっと作りました
そんなこんなで、夕食を食べたのに「まだ食べてない」と母のお弁当に手が伸びる事件も起きて、私は慌ててホワイトボードを作りました。
といっても、買ってきたのはシンプルなホワイトボード。そこに——
- 一番上に「 月 日( )」の日付欄
- 「出発時間 → 帰宅時間」を書く欄を7段
- 各段の左には、散歩・お店・デイサービス・買い物カートなどのイラストを切り抜いてペタペタ
- 段の区切りはマグネットのバー、矢印は青ペンで手書き
- マーカーとイレーザーもセット
はい、完全なる手作りです(笑)。イラストがあれば、文字を読むのが億劫になってきた父でも「これは散歩の段だな」と分かるかな、という作戦です。

「玄関に置いたら、出かけるとき目に入るんじゃない?」と提案したら、父はひとこと。
「そんなところに置くのは恥ずかしい。ここでええ」
指さしたのは、リビングの自分の定位置の横。……プライドは、ちゃんと残っているんです。正直、これはちょっと嬉しい発見でした。
初日は、日付と「9:00〜9:15 さんぽ」を自分で書いてくれました。でもそのあと、ぽつり。「面倒くさいなあ」
続くかどうかは、正直分かりません(笑)。
思わぬ活躍は「伝言板」でした
ところがその日の夕方、事件が起きます。
体調を崩して休んでいた母に、父が「お前は怠け者や」と怒ってしまったんです。母から泣きそうな声で電話がかかってきて、私はまた実家へ。
興奮している父に口で説明する代わりに、私はホワイトボードにこう書きました。
「お母さんは、あしたも病院です。おなかが痛いので、優しくしてね」
お風呂から上がってきた父は、それを読んで「なんや、優しいで」。怒っていたことは、もう忘れかけていました。
「お父さん、忘れちゃうから、これ何回も読んでね」と言うと、「分かった分かった。優しくしてるやん」とコロッと機嫌が直って。
ご飯の記録のために作ったボードが、先に「気持ちを伝える道具」として役立つなんて、思ってもみませんでした。
「俺がタクシー呼んで連れてったる」
その後、父は母に「どこが痛いんや」と真剣な顔で聞いて、こう言ったんです。
「もしなんかあったら、俺がタクシー呼んで、俺が連れてったる」
ご飯を食べたことは忘れてしまう父が、母を守る気持ちは忘れていない。母と2人で思わず吹き出してしまって、「何笑ってるんや」と父。
大変な一日だったはずなのに、最後はちょっとあったかい気持ちで帰ってきました。
おわりに
ホワイトボード作戦が続くかは、まだ分かりません。でも、責めるための記録ではなく、「気持ちを伝える道具」として、あの場所に置いておこうと思います。
貼り紙が効かない、夜中のスイッチ切りに困っている——同じことで悩んでいる方がいたら。うちも同じですよ。ひとりじゃないですよ。


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