90歳の父の足が、ぱんぱんに腫れました。
看護師として長年、たくさんの患者さんの浮腫を見てきました。でも、自分の親のこととなると、まったく別ものでした。
慌てて夜のクリニックに駆け込んだ日から、いまの落ち着いた状態になるまで、2か月かかりました。その間には、2人の先生の見解が分かれるという場面もありました。
結論から先に書いておきます。いろいろやってみて、わが家に唯一残ったのは「足を高くして寝る」だけでした。そして、それで父の足は腫れなくなりました。
同じように「親の足がむくんでいる」と心配している方に、その2か月をまとめておきます。
あの夜、父の足がぱんぱんになった
夕方、母から電話がかかってきました。
「お父さんの足がぱんぱんに腫れてるの」
急いで実家へ。歩いて10分もかからない距離なので、こういうときは助かります。夜の7時前でした。
見ると、両足首がぱんぱんに腫れている。浮腫(ふしゅ)です。看護師の目で見て、これはただ事じゃないと思いました。
「今からクリニック行こう、まだ開いてるから」
そう言ったけれど、父は首を縦に振りません。
「痛くないから行かへん」と言う父
「痛くないから大丈夫」
認知症の父にとって、痛みがなければ異常はない。それだけがすべてなのです。
しかも普段は7時には寝ている人。「こんな時間から嫌だ」と言って、布団から動こうとしません。
結局その日は説得を諦めました。「足を高くして寝てね」と言い残して帰りました。翌日、その翌日は少し落ち着いたと聞いて、ほっとしていました。
――でも、それで終わりませんでした。
体重が2.5kg増えていた ― ここで引けないと思った理由
数日後の夜7時過ぎ、また母から電話。私はちょうど仕事から帰ってきたばかりで、チロン(16歳の老犬)のごはんとおしっこの世話をしているところでした。
「また足が腫れてる」
よくよく話を聞くと、体重も2.5キロ増えているといいます。
ここで、私の中のスイッチが切り替わりました。
足の浮腫だけなら、様子を見ることもできます。でも、短期間で体重まで増えているとなると話が違う。心臓か、腎臓か。体に水分が溜まっているサインかもしれない。
これはちゃんと診てもらわないといけない。看護師として、ここは引けないと思いました。
💡 なぜ体重を見るのか
体に水分がたまると、見た目のむくみとして分かるより先に、体重が増えます。数字は嘘をつきません。「なんとなく腫れてる気がする」より早く、客観的に変化に気づけるのが体重です。
7時29分の、滑り込み受診
スマホで近くのクリニックを検索しました。7時半まで診てくれる循環器のクリニックに電話すると、「7時半までに来られたら大丈夫です」。
父を急かして車に乗せました。お薬手帳を探すのに時間がかかりました。歩くのもゆっくりでした。それでも何とか、7時29分に滑り込みました。
私はその間、ごはんを食べていませんでした。
待合室で、私はイライラしていた
診察を待つ間、父と母は何度も「次かな、次かな」と大きな声で話していました。7時29分に滑り込んだのだから、一番最後なのは分かっているはずなのに。
耳が遠い二人にとっては仕方がないことだと分かっていても、チロンのことが頭から離れなくて、お腹も空いていて、私のイライラはどんどん膨らんでいきました。
「大きな声出さないで」
思わず言ってしまいました。
後から反省しました。疲れていたとはいえ、言わなくてよかった一言だったかもしれません。でも、これが介護の現実でもあります。きれいごとだけじゃやっていけない。余裕がなくなると、いちばん大切にしたい相手にきつく当たってしまう。そういう自分も含めて、介護なんだと思います。
家では、チロンがはあはあしていた
診察を待つ間、ペットカメラでチロンを確認しました。おむつをつける時間もなく出てきてしまったから、ずっと気になっていたのです。
画面の中のチロンは、トイレに行きたそうにもぞもぞしていました。立ち上がろうとするけど、立てない。はあはあと息をしている。後ろ足が麻痺しているチロンにとって、自力で体勢を変えるのは難しいのです。
胸が痛かった。でも、父の診察が終わるまで動けない。あちらを立てればこちらが立たず。
家に帰ると、チロンはうんこまみれになっていました。
「ごめんね、チロン」
そのままお風呂に連れて行って、一緒に入りました。くたくたでした。でも、チロンがお風呂の中でぐったり私にもたれてくるのを感じながら、なんかもう、笑えてきて。
父も、チロンも、私を必要としてくれている。それだけで、まあいいか、と思えました。
循環器の先生に言われたこと ―「その薬、むくみやすいですよ」
その夜のクリニックでは、採血と心電図をしっかり診てもらいました。後日、結果を聞きに行くと――
「いつものクリニックで出している血圧のお薬と前立腺のお薬、これ、むくみやすくなる薬なんですよね」
……言われてみれば、そうなのです。
看護師の私も、頭では分かっていました。血圧の薬の一部や、前立腺の薬には、副作用としてむくみが出ることがある。教科書に載っています。患者さんのことなら、すぐ気づいたと思います。
でも、自分の親のこととなると、なかなか気がつけないものです。
「歳だからかな」「塩分かな」「動かないからかな」。そんなふうにばかり考えていました。毎日顔を合わせているぶん、かえって見えなくなる。それが家族なんだと思い知りました。
その場でむくみを取るお薬を数日分だけ出してもらったところ、これが効きました。体重が約3キロ減り、むくみもだいぶ落ち着きました。
「またこういうことがあれば来てください」。先生の一言で、ひとまず一区切りです。
でも、かかりつけの先生は「関係ないと思う」
後日、8週間ぶりのかかりつけ受診日。むくみのことと、循環器の先生に言われたことを伝えました。
すると、かかりつけの先生の答えは――
「それは関係ないと思いますよ。ずっと飲んでますもんね」
つまり、その薬は何年も前から飲んでいる。今まで何ともなかったのだから、今回のむくみの原因とは考えにくい、という判断でした。
結局、薬は一つも変わりませんでした。いまも同じものを飲んでいます。
先生の見解が分かれたとき、どうしたか
正直、迷いました。でも、どちらの先生も間違ったことは言っていないんです。
- 循環器の先生 → 薬の副作用としてむくみが出ることはある(事実です)
- かかりつけの先生 → 長く飲んでいて今まで平気だったなら、今回の原因とは考えにくい(これも筋が通っています)
同じ「むくみ」を見ても、専門とする分野や、その人をどれだけ長く診てきたかで、見え方は変わります。どちらが正しいかを家族が決めることはできません。
私が選んだのは、「かかりつけの先生の判断に従って、様子を見る」でした。父の体をいちばん長く見てきたのはかかりつけの先生ですし、薬の履歴も、父の性格も、家族の状況も、全部分かってくれているからです。
⚠️ もし同じ場面になったら
家族が自己判断で薬をやめるのだけは、絶対に避けてください。血圧が急に上がるなど、かえって危険です。
やるべきなのは、別の先生に言われたことを、そのままかかりつけ医に伝えること。「循環器の先生にこう言われたのですが、どうでしょうか」と聞けば、必ず答えてくれます。判断は先生に委ねて、家族は「情報を橋渡しする係」に徹するのが、いちばん安全だと思います。
提案されたのは、足を高くして寝ることと、弾性ストッキング
薬は変えない。では、どうするか。かかりつけの先生が教えてくれたのは、この2つでした。
- 足を高くして寝ること
- 弾性ストッキング(着圧ストッキング)を使うこと
あっさりしているわけではなく、じっくり話を聞いてくれる親身な先生です。両親もすっかりいつもの受診モードで、「あの循環器の先生に替わりたいね」と話していたことは、母の中ではもうどこかへ消えていました。
それでいいんだと思います。長年通っているかかりつけの先生には、全部分かってもらっている。その安心感は、簡単には替えられない。
そして、何かあったときに循環器の先生という選択肢もある。両方いてくれると思うと、それだけで少し心強い気がしています。

そして3度目。今度は、受診しませんでした
それから約1か月後のことです。
両親とランチに行って、買い物をして、帰宅するとチロンは気持ちよさそうに爆睡。「今日は平和な一日やったなぁ」と思いながら過ごしていました。
そこへ、夕方また母から電話。
「今やったら、あの子が休みやから、前に連れて行ってもらったお医者さんのところ行こうっていうのに、痛くないから行かへんて言わはるねん」
……正直に言うと、これがいちばんモヤッとしました。
私はまだ「連れて行くよ」なんて一言も言っていません。それなのに、母の中ではもう「あの子が休みやから連れて行ってくれる」ことになっている。受診の足として、すっかり予定に組み込まれていたのです。
介護をしていると、こういうこと、ありませんか。「休みの日=当然空いている」扱いになっていたり、自分の予定が知らないうちに親の段取りに組み込まれていたり。決して嫌なわけじゃないけれど、相談の前に決定事項になっていると、ちょっとだけ気持ちがざわつくんですよね。
それでも、足のむくみは気になる。結局「ちょっとだけ見てくるわ」と、実家へ向かいました。
実家に着くと、母はお風呂。父はすでに寝る準備。しかも玄関に内鍵がかかっていて、電話をかけても全然気づかない。結局、寝室の窓をトントンと叩いて、やっと父が気づいてくれました。
体重を測ると57.5kg。普段より約1kg増えていました。足を見ると、確かに右足だけ少しむくんでいるような感じ。でも息苦しさもなく、痛みもなく、表情もいつも通り。
結局その日は、クリニックには行きませんでした。
1回目は慌てて滑り込み受診をした私が、3回目は「今は行かなくていい」と判断できるようになっていました。何を見ればいいか分かっている。それだけで、こんなに落ち着けるのかと思いました。
その日にやったのは、ひとつだけ。血圧手帳の横に「体重」と書き足して、その日の数字を記入してもらったことです。
父には「痛くなくても、心臓や腎臓の調子が悪いと足が腫れることがあるんやで」と説明しました。父は「そうか」と返事をしていましたが、たぶん明日には忘れていると思います。それが認知症です。
【看護師メモ】足のむくみで見るべき4つのこと
長年看護師をしてきた目線で、少しだけ補足しておきますね。
高齢者の足のむくみ(浮腫)は、長く座っていたり塩分のとりすぎだったりと、心配のいらないものも多いです。ただ、心臓や腎臓の働きが落ちているサインのこともあります。
私が気にしているのは、こんなポイントです。
⚠️ こんなときは受診を考えてください
・数日で2kg以上など、急に体重が増えていないか
・息苦しさや、横になると苦しいといった症状がないか
・押すと跡が残るような、はっきりしたむくみか
・片足だけが腫れて、痛みや赤み・熱感がないか(片側だけのむくみは、念のため受診の目安になることがあります)
父の場合は痛みも息苦しさもなかったので、様子を見ることにしました。気になる症状があれば、迷わずかかりつけ医に相談するのが安心です。
そして、受診のときはお薬手帳を必ず持っていくこと。今回のように、飲んでいる薬について先生の見解が分かれることもあります。手元に記録があれば、その場で確認してもらえます。
その後 ― 続かなかったこと、続いたこと
さて、正直なところを書きます。
毎日の体重測定は、続いていません。
私が実家に行ったときに「はい、乗って」と測ってもらう。それくらいです。あれだけ「毎日測ってね」とお願いしたのに、わが家はその程度です。
それから、父の日に弾性ストッキングをプレゼントしました。むくみ対策にいいものを選んで、けっこう真剣に。
タンスの肥やしです。
一度も履いてくれていません。(あれだけ調べて選んだのに!)
でも、ひとつだけ続いていることがありました。
足を高くして寝ること。
先生に言われたあの日から、父はずっと続けているそうです。特別な道具もいらない。座布団やクッションを足の下に入れて寝るだけ。それだけを、認知症の父が、何も言われなくても続けている。
そして――父の足は、腫れていません。

いちばん簡単なことだけが、続いた
これは、同じように悩んでいる方に、いちばん伝えたいことかもしれません。
介護をしていると、あれもこれもと対策を増やしがちです。私もそうでした。毎日体重を測ってもらって、記録をつけて、ストッキングを履いてもらって……。
でも実際に残ったのは、いちばん簡単な、たったひとつでした。
続かないことを責めても仕方ないんです。認知症の父にとって、毎日の記録も、ストッキングを履くという手間も、続けられないものだった。それだけのこと。
だから、もし親御さんの足がむくんでいたら。まずは足を高くして寝てもらうところから試してみてください。お金もかからないし、覚えることもない。そして、それだけで変わることもあります。
もちろん、症状によっては受診が必要です。上の4つのポイントに当てはまるなら、迷わずお医者さんへ。
💡 弾性ストッキングそのものは、本当にいいものです。私も仕事で使いますし、むくみに悩む方にはおすすめしています。父が履いてくれなかっただけで(笑)。選び方は足のむくみと弾性ストッキングの記事に書きました。
「何も起こらないように見守る」のも、立派な介護
帰り道、ふと思いました。
介護って、大きな出来事が起こったときだけが大変なんじゃないんです。むしろ「何も起こっていないか確認する」、その積み重ねのほうがずっと多い気がします。
慌てて夜のクリニックに駆け込んだ日から、2か月。
いまは、父の足を見て「大丈夫そうやな」と思える。何かあれば、どこに行けばいいかも分かっている。それだけで、ずいぶん気持ちが軽くなりました。
予定通りにいかないことばかりで、ときにはモヤッとすることもある。記録は続かないし、ストッキングはタンスの肥やしだし。
それでも、父は今日も足を高くして寝ています。
今日も何も起こらなかった。それがいちばん、ありがたいことです。🐩☕️✨


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