「一人やったら、寂しかったわ」――母が入院して、初めて父と過ごした数日間

👴 父の認知症

はじめに

母が入院する一か月ほど前から、お腹の痛みはあったそうです。

でも母は昔から痛みに強く、「マッサージをしたら治るから」と病院へは行かず、そのまま様子を見ていました。

私は、そのことをまったく知りませんでした。

祝日の月曜日。実家へ行くと、いつもは動き回っている母が、珍しく横になっています。

「どうしたん?」

そう聞くと、「夜中からまた痛くてなぁ……」と、つらそうな表情。

受診はしたものの、その日は一度帰宅。ところが夜中に痛みが強くなり、救急搬送されました。翌日改めて診察を受け、そのまま入院することになりました。

詳しい病気については、また別の記事で書こうと思います。

ただ、看護師として、そして娘として、これだけは伝えたいのです。痛みを我慢しすぎないでください。「もっと早く受診できていたら」と、私は今も少し悔やんでいます。

その時、私の頭にあったのは、母の病気の心配。そして――もう一つ、大きな気がかりがありました。

認知症の父を、一人にはできない。

初めて「介護する側」になった

父は90歳。認知症があります。

普段、父のことを支えているのは母です。その母が、突然いなくなりました。

兄と相談し、交代で実家に泊まることにしました。

正直、それまで私は、仕事へ行き、自宅のことをして、愛犬のお世話をして、それだけで毎日精一杯。実家のことは、母が当たり前のように回してくれていました。

でも実際に代わってみると、分からないことばかりでした。

名前のつかない家事

父には父の生活のリズムがあります。

私がお皿をつけ置きしておこうと思っている間に、もう洗ってしまう。リンスはどこにあるの? 窓の鍵が固くて開かない。築45年の家は、建て付けも悪い。

一つ一つは小さなことです。でも、その小さなことが次から次へと出てきます。その積み重ねが、思っていた以上に疲れるのです。

その時、初めて思いました。

母は、この毎日を何年も続けてきたんだ。

介護って、特別なことではなく、名前のつかない家事の積み重ねなんだと知りました。

認知症でも、父らしさは残っていました

一方で、父には驚かされることばかりでした。

母の洗濯物を干そうとすると、「やる、やる。」と言って、スタスタと二階のベランダまで持って行ってくれます。

ご飯も、「水加減だけ見てくれ。」と言って、自分で炊きます。私が朝に保温を切った炊飯器も、夕方にはちゃんと保温に戻してありました。

看護師として見ても、父に大きく残っている課題は、短期記憶です。同じことは何度も聞きます。

でも、生活する力も、人を思う気持ちも、90歳とは思えないほど残っていました。

父親としての誇り

木曜日、母の面会の帰り道のことです。兄と父と私の三人で、買い物とお茶をしにコメダ珈琲へ寄りました。

会計になると、父は財布を取り出しました。少ないお小遣いの中から、「娘に払わせるわけにはいかない。」

そんな父親としての誇りは、認知症になっても変わっていませんでした。

私は一度「ありがとう」と受け取り、あとでそっと返しました。父の気持ちを、そのまま受け止めたかったからです。

メモ一枚が支えていたもの

父は、母が入院していることは理解しています。でも、数分すると忘れてしまいます。

そこで、「お母さんは入院しています。心配ないよ。」そう書いたメモを、ホワイトボードや玄関に貼りました。

すると父は、そのうちの一枚を、自分の定位置へ持って行き、何度も何度も見ていました。

「歳をとってから、こんなことになるなんて大変や。」

そう言っては、「でも、お母さんはひどくなくてよかった。」と、自分に言い聞かせるようにつぶやいていました。

▶ 関連記事:「優しくしてね」と書いたら ― 認知症の父とホワイトボード作戦

「一人やったら、寂しかったわ」

兄と泊まる日を相談していた時、父は笑って言いました。「泊まらんでも大丈夫や。」

でも、それは強がりでした。

夜になり、二人きりになると、父はぽつりと言いました。

「泊まってくれてありがとうな。
一人やったら、寂しかったわ。
いつも二人やのに、一人になったら分からんことばっかりや。
お前らがおってくれて、本当にありがたい。」

私は少し冗談っぽく聞きました。「お父さん、泣けてくる?」

父は、黙って、大きくうなずきました。

――冗談で聞いてしまったことを、申し訳なく思いました。

認知症になると、短期記憶は失われていきます。それでも、寂しい。ありがとう。そんな感情は、ちゃんと残っている。父が、教えてくれました。

介護は、一人では続けられない

今回、一番感じたことがあります。

仕事をしながら介護を続けることは、本当に大変です。

今回は兄が近くにいたから交代できました。でも、兄弟姉妹が遠方だったら。親戚が高齢だったら。近所に頼れる人がいなかったら。

父のように日常生活はほぼ自立している人なら、ショートステイを勧めても、本人が納得できないこともあります。

介護休暇などの制度はあります。でも実際には、「職場に迷惑をかける」――そう思うと、休むことさえ悩んでしまいます。私も、そうでした。

ケアマネジャーさんを変更して、本当に良かった

以前、このブログで 「ケアマネジャーさんは変更してもいい」 という記事を書きました。

▶ 関連記事:介護のケアマネージャーは変えていい――実際に変えてわかったこと

正直、あの時は少し迷いもありました。でも今回ほど、「あの時変更していて本当に良かった」と思ったことはありません。

相談するとすぐに動いてくださり、デイサービスを毎日利用できるよう調整してくださいました。

さらに、父が一人になる時間を少しでも短くできるよう、送迎の時間まで早めてもらえるよう配慮してくださいました。

介護は、家族だけでは続けられません。困った時、一緒に考えてくださる人がいることは、本当に心強いことでした。

【もしもの時の備え】介護する人が突然倒れたら

今回のことで、私が一番焦ったのは、「いつも介護している母が倒れたら、父はどうなるんだろう」ということでした。

私自身の備忘録も兼ねて、調べたことをまとめておきます。

介護する人が突然倒れたときに使える制度まとめ(緊急ショートステイ・デイサービス・介護休暇・介護休業・相談先・行動フロー)
介護する人が突然倒れたとき、使える制度と相談先のまとめ

親を一時的にお願いしたい時

  • 緊急ショートステイ
  • デイサービスの利用回数を増やす

まずは、担当のケアマネジャーさんへ相談してみてください。

仕事を休みたい時

  • 介護休暇
  • 介護休業

勤務先によって制度が違うこともあるので、人事担当へ確認してみてください。

困ったら相談したいところ

  • 担当のケアマネジャーさん
  • 地域包括支援センター

そして今回、私が一番感じたこと。

元気なうちに、一度ショートステイなどを体験しておくこと。

初めて利用するのが、本当に困った時では、本人も家族も不安になります。「備えあれば憂いなし」――今回、その言葉を実感しました。

※制度は変更されることがあります。詳しくは、お住まいの自治体や担当のケアマネジャーさん、地域包括支援センターへご確認ください。

おわりに

今回、ほんの数日だけ母の代わりをした私でさえ、「仕事と介護を両立するって、こんなに大変なんだ」と感じました。

毎日続けている人は、その何倍も大変なはずです。

だからお願いです。一人で抱え込まないでください。

家族でも。ケアマネジャーさんでも。デイサービスでも。地域包括支援センターでも。頼れるところには、頼ってください。

介護は、頑張る人が、一人で頑張り続けるものではありません。

そして、父が言った

「一人やったら、寂しかったわ。」

この一言を、私はきっと忘れません。

今、仕事と介護の両立に悩んでいる方へ。

あなたも、本当によく頑張っています。

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